宮部みゆき『この世の春』
「小説史に類を見ない、息を呑む大仕掛け。
そこまでやるか、ミヤベ魔術!
それは亡者たちの声? それとも心の扉が軋む音? 正体不明の悪意が怪しい囁
きと化して、かけがえのない人々を蝕み始めていた。目鼻を持たぬ仮面に怯え続
ける青年は、恐怖の果てにひとりの少年をつくった。悪が幾重にも憑依した一族
の救世主に、この少年はなりうるのか――。21世紀最強のサイコ&ミステリー、
ここに降臨!」
おいおい、上記の表現はいったい誰が考えたのだ???と疑問に感じるほどの書
評を背負わされた本が宮部みゆきさんの『この世の春』だ。
宮部さんの小説は好きで、ほぼ全部読んでいる。宮部作品の怖さは、人間の闇が
根深く救いがないところ。そこをグッと飲み込みながら読み進めることも味わい
深さのひとつである。
ストーリーは26歳の若き藩主・重興が乱心したとして、家臣による強制隠居を
させられるところから始まる。ヒロイン多紀は、夫と離縁し父と死別、その後不
思議な縁で重興の世話係となり、様々な闇と謎に巻き込まれていく。
上巻は、ワクワクしながら1日で読み終え、いざ下巻に。ところが下巻で割とあっ
さり、というか呆気なく謎解きが進み、最後のハッピーエンドの部分は流し読みを
してしまった。
呆気ない謎解きは質問を受けた重要人物たちが、スラスラと包み隠さず自分の中
に持つ闇を話してくれたからだ。きっと言いたくても言えなくて、だけど死ぬま
で心の中に留めておくのは苦しくって、心ある人に問いかけてもらって吐き出し
たかったんだろうな。
まあ、だけどさ、最初は何とも思わなかったヒロインが、段々とNHK大河ドラマ
の女主人公のように、あっちゃこっちゃ話に入ってきて「うざい存在」になってい
くのには閉口した。
これが鼻ぺちゃで、笑うとちょっとだけ可愛く見える愛嬌あるぶさいくなヒロイン
だったら、そんな風には思わないのかもしれない。だけど多紀は美しい女性。
ラストに向かうにつれて、重興さんの元嫁である由衣の方のほうがいじらしく見え
てしまった。
そして宮部さんには珍しくハッピーエンドなのだが、本当の黒幕は誰なんだ!とい
うモヤモヤ感は残ったかな~。
ブツブツ言っても、さすが読み出したら止まらないストーリー展開と、活き活き
と動き回る脇の登場人物たちの描写力は、やっぱり面白い。
購入しても損を感じさせない貴重な作家のお一人であることは間違いない。